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2023.08.11

芥川賞受賞は子育ての真っただ中…作家小川洋子さんが「どんなに忙しくても守ったこと」【ライブトーク岡山】

今旬な人に直接会って話を伺う「中塚美緒のライブトーク」。前回に引き続き、ゲストは岡山市出身の作家、小川洋子さんです。2回目の今回は、子育ての思い出や趣味の話などプライベートに迫ります。

(小川洋子さん)
「子育てが一番忙しい時に芥川賞をいただきデビューした。子育てと小説を書くことを無理やり両立させていた」

7月、2度目の岡山県文化特別顕賞を受賞した作家の小川洋子さん。本屋大賞となった「博士の愛した数式」をはじめ、「密やかな結晶」「ことり」など多くの作品を世に出し、35年間第一線で活躍しています。一躍、時の人となったのは「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞した28歳の時でした。

(小川洋子さん※当時)
「本当に受賞できると思っていなかった。本当にびっくりして」

実は当時、小川さんは子育ての真っただ中。

(小川洋子さん)
「おむつを替えて1行、離乳食をつぶして1行」

(中塚美緒アナウンサー)
「片手にお子さん、片手にペン」

(小川洋子さん)
「大事な仕事の日に限って子供は熱が出る。そういう時は実家の母を呼んで世話を頼んだり」

作家として大きな注目を集める中で始まった子育て。しかし、どんなに忙しくても守ってきたことは…

(中塚美緒アナウンサー)
「これまでの作家人生で貫いてきたことは?」

(小川洋子さん)
「一字一句おろそかにしないこと。1文字にも心を込める。1字として何気なく書くことがない」

子育てをしながら一文字一文字を紡ぐ日々。当時住んでいた倉敷市鶴の浦には、息子との大切な記憶が詰まっていました。

(小川洋子さん)
「保育所に子供と手をつないで歩いていた道が思い出に残っている。急な階段を下りていくと、下に魚屋さんがあって、そこを2人で何でもない話をしながら歩いて送り届けて。迎えに行くと息子はものすごく楽しそうに保育所で遊んでいて「遊びたくて帰りたくない、と言うかな」と思うと、私の顔を見つけるともっとうれしそうな顔をしてわーっと駆けて来てギュッとハグして、また魚屋さんの側を通って帰る」

(中塚美緒アナウンサー)
「温かい話でうるっときてしまった。どこかに行ったのではなく何気ない…」

(小川洋子さん)
「そうです。どこか旅行に行った思い出ももちろんあるが、日常の何気ない、当たり前の誰もが体験すべき平穏な生活、それが実はかけがえのないもので、それを奪う権利は誰にもないと考えさせられる」

(中塚美緒アナウンサー)
「(子育てと仕事の)両立は大変でした?」

(小川洋子さん)
「大変だったが、今振り返ってみると人生で一番幸せだった時だと思う。結局、自分の時間を自分以外の誰かのために使うことでしか得られない幸福がある。その時は「もったいない。この間に1行でも書けるのに」と思ったかもしれないが、自分以外のか弱いもののために自分の時間を使えた経験が、実は幸福だったことが今頃になって分かった。もう手遅れです(笑)」

子育てを卒業した今、小川さんには新たな趣味ができたといいます。

(中塚美緒アナウンサー)
「小川先生の推し活情報を手にいれた。ミュージカル観劇が好き?」

(小川洋子さん)
「いざ24時間好きなだけ小説が書けるとなったら寂しくなって、ミュージカルにふと沼に足を取られてしまい」

(中塚美緒アナウンサー)
「趣味が仕事につながることはある?」

(小川洋子さん)
「編集者の中で、私がミュージカルにはまっていると知った人が「舞台芸術をテーマに小説を書きませんか?」と。東京の帝国劇場の裏側を取材させてもらったり」

(中塚美緒アナウンサー)
「小説を書くとき、ほかの作品も?」

(小川洋子さん)
「取材します。自分がこういう小説になるかなという想像を超えるものを与えて下さるので、取材は非常に楽しい。こんな世界もあるのかとか、こんなぶっ飛んだ人もいるのねと、私の価値観をめちゃくちゃにしてくれるような出会いがあればあるほど許容量が増える」

2023年で作家生活35年。最後に今後について伺いました。

(中塚美緒アナウンサー)
「これからは作家としてどう過ごしたい?」

(小川洋子さん)
「これまで35年繰り返してきたことと同じ。特別新しいことをするわけでもなく、突飛なことをやるわけでなく、ひたすらコツコツ書き続ける。書きたいテーマは偶然のなせる業で向こうからやってきてくれると思う」