OHK 8Ch

  • LINE友だち追加

2023.03.09

爆撃の音が聞こえない…ウクライナの“ろう者” 手話で意思疎通できず混乱も【手話が語る福祉 岡山】

手話が語る福祉のコーナーです。3月3日は、耳の日です。1年を迎えたウクライナ侵攻をきっかけに、戦争とろう者について考えます。

(テレビの画面:ウクライナに住む女性へのインタビュー)
「(字幕)毎日 爆発音で目を覚ますようなものです」
手話0303_01
(テレビを見る井上博文さん)
「(手話で爆発を表し)バン、バン、バン。ウクライナの戦争は嫌。昔を思い出す」
手話0303_02
ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎えた2023年2月24日。倉敷市に住むろう夫婦の井上博文さん(90)と寿美子さん(87)は、自身の体験を思い出していました。

(井上寿美子さん)
「飛行機の音は聞こえずお母さんに起こされた。大きな飛行機を見て音がお腹に響いて怖かった」
手話0303_03
(井上博文さん)
「飛行機が爆弾を落としたようだが、聞こえないのでわからなかった。実際に飛行機を見て理解した」
手話0303_04
1945年6月に起きた水島空襲。
手話0303_05
博文さんはB29による爆撃を目の当たりにしましたが、当時は詳しい説明を受けることもできず、ただ逃げることしかできませんでした。
手話0303_06
(篠田吉央キャスター)
「戦争の時に情報はありましたか?」
(井上寿美子さん)
「なし」
(井上博文さん)
「ない。手話で伝えてくれる人もいなかったので、戦争が終わったことも10日間くらいわからなかった。戦争が起きた時に私たちのように情報がなくて困る人がいることを忘れないで欲しい」
手話0303_07
そして今、ロシアの侵攻を受けるウクライナでも同じ思いをしているろう者がいます。

(地下シェルターに避難したウクライナのろう者)
「きょうは飛行機が複数飛び回り爆撃してきた。ミサイルが複数飛んできた」
手話0303_08
薄暗い中、懸命に手話で訴えるのはウクライナ中央部に住む男性。家族とともに避難した地下シェルターから戦時下の様子を伝えます。
手話0303_09
一方、ウクライナ南東部では、地元のろう学校が爆風によって甚大な被害を受け、生徒たちは、軍などの指示で避難したといいます。

(ウクライナろう協会 イリーナ チェプチーナ会長)
「最初はミサイル攻撃が全くわからなかった。スマートフォンにミサイルが来るという情報が入ると、すぐに地下シェルターに逃げた」
手話0303_11
こう語るのは、キーウ在住でウクライナろう協会のイリーナ チェプチーナ会長。
手話0303_12
当時、約3万7000人いたというウクライナのろう者は、インターネットなどで侵攻開始については知ることができましたが、政府からの情報や避難先などの詳しい情報については、手話による意思疎通ができる環境になく非常に混乱したと言います。
手話0303_13
(ウクライナろう協会 イリーナ チェプチーナ会長)
「とりあえず持てる物だけをもって避難した。バスは渋滞でほとんど進まず駅も人でいっぱいだった。侵攻開始からの3日間は本当に大変な日々でした」

情報を知るうえで期待された手話通訳者も、避難などで223人が78人にまで減りました。
手話0303_15
こうした状況を受け協会では、手話通訳者とろう者のグループを作り、効率的な通訳体制を構築し情報伝達に務めました。
手話0303_16_1
(ウクライナろう協会 イリーナ チェプチーナ会長)
「ヨーロッパへの避難組など、それぞれにグループを作って情報を発信した。ろう者は文章など読み書きが難しいので、手話で伝わる動画にして配信した」

一方、戦火を逃れて日本に避難したろう者もいます。コバレンコ・バーディムさん(51)は、2022年9月、ポーランドを経由して大分県に避難してきました。
手話0303_17
現在は、障害者の自立支援を行う社会福祉法人「太陽の家」で週5日働いています。見知らぬ土地での暮らしですが、手話や翻訳アプリを使い情報を得たり、周囲とコミュニケーションを取ることが、大きな支えになっていると言います。

(翻訳アプリ:日本語→ウクライナ語)
「お仕事楽しいですか」
手話0303_18
(コバレンコさんの返答)
「私は1週間働いてきた今、すべてが大丈夫です」
手話0303_19
戦禍の中、求められるろう者の情報保障。日本のろう者たちも支援に立ち上がりました。

(ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会 田村美歩代表)
「ウクライナにいる手話通訳者に報酬が出せない。その代わりに、わずかだが寄付を謝金に充て、手話通訳をお願いし情報保障の支援をしている」
手話0303_20
ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会では、ウクライナとロシアのろうの子供たちが描いた絵をプリントしたトートバッグを販売し、寄付を募りました。
手話0303_21
(ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会 田村美歩代表)
「2011年3月11日の東日本大震災の時に、海外からいろいろな支援を受けた。そのお礼として、しっかり支援をしたい気持ちがあった」

(ウクライナろう協会 イリーナ チェプチーナ会長)
「やはり社会の中でろう者が孤立しないのは難しい。でも同じウクライナ人なので、聞こえる人 聞こえない人関係なく、みんなが1つになって共に生きていける社会になってほしい」
手話0303_22
(爆発しているシーンで、途中で音を消す)
「手話ワイプ:バーン。バーン。今、音を消しました。みなさん考えて下さい)
手話0303_23
ろう者に爆撃の音は聞こえていません。ウクライナ侵攻から1年が過ぎ、戦闘の長期化が懸念される中、戦禍で取り残される人たちが生まれないための取り組みが求められています。
手話0303_24
(篠田吉央キャスター)
「ウクライナのイリーナさんは、日本の手話で“ありがとう”と言ってくれました。ちなみに、ウクライナの手話でありがとうは、こぶしをおでこからあごの辺りに下げる様子で表します」
手話0303_25