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「レジェンドともバチバチに…」異国の地で奮闘中 湯郷ベル初代監督・本田美登里さん(前)【岡山】

2022.09.22

「レジェンドともバチバチに…」異国の地で奮闘中 湯郷ベル初代監督・本田美登里さん(前)【岡山】

2022年2月、女子サッカー・岡山湯郷ベルの初代監督、本田美登里さん(57)が、中央アジア・ウズベキスタンの代表監督に就任しました。

現役時代、日本代表のDFとして活躍した本田さんは2001年、女子サッカー不毛の地、岡山県美作市(当時は美作町)に単身乗り込み、後の日本代表、宮間あや選手や福本美穂選手を育て、チームを日本トップクラスに成長させました。
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その後監督に就任した長野パルセイロ・レディースでもまだ若いチームを率いてトップリーグ昇格を成し遂げました。

そんな「女子サッカー界のパイオニア」本田さんが選んだ、女子サッカー発展途上国・ウズベキスタンでの指導。就任の経緯や、初めての異国での指導で感じた事などを、9月に一時帰国した本田さんに聞きました。

■条件つきで

Q、就任の経緯は?
「日本サッカー協会のある人から電話がかかってきて。『ウズベキスタン女子代表がオリンピックに出場したい』と。宗教的な問題もあって女性の指導者が必要だという所で是非行ってもらえないかという話で」

Q、聞いたときはどうでしたか?
「『どこ?』って(笑)。何十年か前の美作も『どこ?』っていう感じだったんですけど、ウズベキスタンでどこだったかなみたいな。最初は全然行く気がなかったので断って。でも何回か電話をもらって、『ちょっと真剣に考えてくれ』と言われて。それで条件をつけて、『その条件を呑んでくれるなら行きますよ』と。その条件というのは、『指導はできるけどGKの指導は絶対私にはできない。フィールドだけ面倒を見ても、GKはセットなので、GK(コーチ)とセットなら行く』と言ったんですよ。セットで無ければ行かないと言って。そうしたらウズベキスタンは監督だけを求めていたので、この話は無かったことに・・・みたいになる時に、ウズベキ側も日本側も、『本田を行く気にさせるんだったら、GK(コーチを)セットにしないとダメだ』と言ってお互いに寄せてくれて。GK(コーチ)ありきでとなったから逆に行かない訳にいかなくなって(笑)、という状況です」

(※GKコーチには、湯郷ベルや長野で共に戦った堤喬也氏が就任)
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■モヤモヤしていた

「ただ、日本の女子サッカー界にちょっと閉塞感を持っていた部分もあって。2019年の女子のワールドカップでちょっといい成績が出せなくて、過去にいい事も悪い事も見てくる中で、『何でこんなに日本の女子サッカーは世界に対して上手くアプローチできないのかな』という部分があって。モヤモヤしていることもあって、『じゃあ外から日本を見てみようかな』という。とにかく何十年も国内で日本の女子サッカーを見てきたので、ちょっと外に出た時に、何かまた違う日本の良さ悪さが見られるかなという部分もあったので、年齢的にも最後かなと思ったので、ちょっと行ってみようと思いました」

Q、実績ある指導者の海外派遣は珍しいですが?
「なのでJFA(日本サッカー協会)も私に対して、『ウズベキスタンの代表がオリンピックに出たい。経験のない指導者を送るわけにはいかないので、とにかく本田行ってくれないか』というところで」

Q、本田さんらしい決断だと思いました。
「オリンピックに出たいと聞いて、私は6年後のパリ五輪の後の五輪のための1年目、2年目の準備をするのかなと思ったんですよ。でもZOOMとかで打ち合わせをしていると、パリ五輪の話がやたらと出てきて。『えっ?』と思って聞いたら、『パリ五輪に出場したい』って。『えっ?それ来年なんだけど』という。そうすると予選が2023年の4月とかに入ってきて、『もう1年しかないじゃん』と。ちょっとビックリしました。それは難しいだろうと。でもまあ、可能性がある限りやらなきゃなという」
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■レジェンドと一触即発

Q、ウズベキスタンの実力は?
「単純に数字で言うと、今なでしこジャパン(日本代表)がFIFAランキング11位で、ウズベキスタンが今46位。東南アジアの女子サッカーが盛り上がってきていて、岡本(三代・タイU-20女子代表監督、元湯郷ベル)が行っているタイだったり、フィリピンであったりが32位、33位あたりのところにいる。中央アジアはウズベキスタンがリーダーだが、46位以降にいるチームなので、なでしこリーグ1部の中位か上位くらいの力しかないかなという。(日本と比べると)かなり落ちますね。ただポテンシャルはあるんですよ。中央アジアという人種的にヨーロッパの血も入っているし、中央アジアの血も流れているというところで、すごく身体能力というかポテンシャルは高い。でもそれを全然磨いていないし、教わっていないし、経験がない。可能性ゼロが30%ぐらいにはなるかなという」

Q、まず何をしようと?
「(選手は)井の中の蛙状態で、『我々が一番上手い』くらいに思っているので、いやいやっていう所もあるし、集合時間は守らない、食事の時間はサンダルで来る、練習中にピアスを付けている、アイスクリームは食べる、コーラは飲む・・・っていう、日本で言ったら小学校6年生くらいに伝えることを伝え始めたという所。かなり反発ありましたけどね。『前の監督にそんな事言われたことない』みたいに。『だから私が日本から来たんだけど』って。ベテランのレジェンドの選手たちと物凄いバチバチになりながら。本当に大変だけどそれは覚悟して行ったので」

Q、そこからどうやって?
「日本から来た知らない女性の監督が来ているけど、『トレーニングをやることで試合に勝っていける』と。そして日本という国はリスペクトしてくれているんですよ。日本人って精密機械みたいに動くみたいな、時間(を守る)とかそういう所をしっかりやらないと、サッカー選手以前の問題なんだよという所を遠征を含め伝えていく。また試合に勝てることで何となく方向が私の方に向いてくれているかなと」
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■結果で納得させる

Q、中央アジアで優勝という結果が出ました。
「中央アジアの大会で、イランが男子も女子も強い国なんですけど、そこにきっちり試合で勝てた事、また自分たちがトレーニングしてきた内容がそのまま試合で出せて。選手たちはすごく満足感というか、『監督がいうトレーニングをすることで、自分たちがやりたいサッカーを少しずつできつつある』と。ウズベキスタンサッカー協会にも、優勝したことで『この人ってまともなんだな、本物なんだな』と思っていただけた。帰国した際の空港に、(サッカー協会の)副会長がわざわざ出迎えてくれて、バラの花束を選手たちに全部渡してくれて、ようやくここで認めてもらえる実績を作ったな、という部分がありましたよね」
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Q、強豪イランとの試合は?
「(それまで)勝てたり勝てなかったり、その時の流れで勝つ、負けるみたいな感じだったけど、その試合に関しては完全にハーフコートに押し込んだ形で試合が出来たので、それは選手たちにとっても自信になったと思っています」

Q、チームとしての目標は?
「とにかく2023年4月に始まるパリ五輪の予選。アジア予選は1次と2次があるので、最低でも1次予選は突破しなければいけないかなと思っています」
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