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95歳の看板俳優、認知症を患う主婦…“生きづらさ”を抱えた人たちが作る新しい演劇(2)【岡山】

2022.06.01

95歳の看板俳優、認知症を患う主婦…“生きづらさ”を抱えた人たちが作る新しい演劇(2)【岡山】

岡山の劇団「OiBokkeShi(オイ・ボッケ・シ)」。役者は95歳の看板俳優をはじめ12人。人とうまく話せないことに悩む若者や、認知症を患う主婦、脳性麻痺と闘う女性など、何かしら“生きづらさ”を抱えた人たちだ。“ひとりひとりの個性そのまま”に、従来の演劇にはない舞台を作りだそうとしている。
番1
岡山県奈義町は、江戸後期から農村歌舞伎が伝わることから演劇などの振興に力を入れている。「OiBokkeShi」を主宰する菅原直樹さん(38)をはじめ、出演者の多くがこの町に暮らしている。

◆認知症を患っていても舞台に◆

竹上康成さん(68)の妻、恵美子さん(70)は認知症だ。9年前から、康成さんが自宅で介護している。
番2
2人は中学校の教師だった。英語を教え、優しい性格で生徒からも人気の先生だった恵美子さんは、ある日、進行すると認知症の可能性のある「軽度認知障害」と診断された。

(竹上康成さん)
「彼女が『お父さん大丈夫だから。私は楽天的だから』と慰めてくれた。それはもっとつらかった。後悔した。『もっと早く気が付いていれば、何かできることがあったんじゃないか』と」
番3
康成さんは、菅原さんと知り合い、『演劇に出てみないか』と誘われた。

(竹上康成さん)
「妻も一緒だけど『いいですか』と言ったら『いいですよ』と。うれしかった。何でもありという発想はすごく新鮮だった。菅原さんは何をどういう風に言っても受け入れてくれた」

今回、康成さんと恵美子さんは夫婦の役。恵美子さんは認知症という設定だ。稽古では…
番4
(主宰・菅原直樹さん)
「『普段自分だったらどう言うか』…じゃあ行きまーす。よーいスタート」

(康成さんセリフ)
「実はうちの妻もね、5年前に若年性の認知症と診断されたんですよ」

・・・恵美子さんは脚本を覚えることができない。そのため、セリフは康成さんの問いかけに恵美子さんが答えればいいようになっている。
番5
(康成さんセリフ)「お母さん、変わってないよな」
(恵美子さんセリフ)「変わってない、全然変わってない」
番6
(主宰・菅原直樹さん)
「はいOKです(拍手)。いい感じじゃないですか。素晴らしいです」

◆人とうまく話せない…苦手を克服するために参加◆

中島清廉くん(21)の役は、民宿で掃除のアルバイトをする“マイケル”という青年。舞台に立つのは初めてだ。
番7
清廉くんは実生活でも掃除の仕事をしている。他人とコミュニケーションをとるのが苦手で重度の人見知り。すぐカッとなるところもあることから1人でする掃除の仕事は気が楽だという。
番8
たまたま「OiBokkeShi」の公演を手伝ったのをきっかけに参加することになった。彼には、ある目的があった。

(中島清廉くん)
「苦手を克服したかった。菅原さんのワークショップに参加して、ちょっとでも苦手意識をなくそうと」

しかし、心配していたことが起きた。清廉くん扮する“マイケル”に、“おかじい”こと岡田忠雄さん(95)が演じる「エキストラの会」の代表が演技指導する場面でのこと。おかじいが清廉くんの演技に芝居ではなく本気でダメ出し・・・清廉くんは切れてしまった。
番9
(おかじい)「わしは気に入らない、全然演技をしていない。心からね」
(清廉くん)「やってます!あなたが分かってないだけ!」

(中島清廉くん)
「人と話すのが苦手なのはよく知っているし、説明できないのが一番大きい欠点なのかな…正直つらいです、本当に」

◆認めあって、たたえあって、引き出しあって◆

明るい色使いの油絵。今回の舞台で使われることになった絵だ。
番10
描いたのは、マイケルの友人役で出演する西春華さん(28)。病院で働いている。
番11
春華さんは脳性まひのため左足が思うように動かない。また軽い知的障害もあり、長い会話になると順序だてて話すことが難しくなる。

(西春華さん)
「初めてこんなにしゃべるので、ある程度覚えて、うまく演じられたらいいと思います。違う人を演じられるから新しい自分になったりして楽しい。面白い」

つらいことなら数えきれないほど経験してきた。

(西春華さん)
「一生懸命やっているのにふざけていると言われたり…なぜできないのと言われたり、早くして、と言われたり。でも何も言えなくて黙って聞くしかなかった。悔しかった。絵を描いていたら自然に落ち着く。嫌なことが忘れられる」
番12
春華さんのお母さんは「OiBokkeShi」の魅力についてこう言う。

(春華さんの母・昌子さん)
「出ている人がみんなフラットで、お互いにいいところを認めあって、たたえあって、引き出しあって、自分も力を出せるというのはどこにもあるものじゃないから、すごいいいなと思う」

(主宰・菅原直樹さん)
「みんな実感がこもった自分の言葉でしゃべっているから力強いですよ。なかなか出せない。お客さんに、もしかしたら聞き取りづらいことがあるかもしれないけど、僕が見せたいものはこの空気感。お客さんが入った時にプレッシャー感じるかもしれないけど自信もってやってほしい」

明るい性格で人と関わることが好きな春華さんは演劇にきっと合う…菅原さんは大きな期待を寄せた。
番13
(※3につづく)