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2025.02.11

「私自身を通して伝えたい…」難聴の23歳新任教諭の“挑戦”は障害がある子供たちの“成長”へ【岡山】

手話が語る福祉のコーナーです。岡山県の特別支援学校に聴覚に障害がある教員がいます。自身の経験を通して子供たちに伝えたいこととは。23歳の新任教員に密着しました。

◇朝の会
「気を付け、礼!おねがいします」
「おはようございます。きょうは元気ですか」

岡山県久米南町にある誕生寺支援学校。知的障害部門の中学部2年の担任、佐藤千優さん(23)です。佐藤さんは生まれつき重度の難聴でほとんど耳が聞こえません。普段は、補聴器と人工内耳を付けています。

◇職員会議
「バスが遅れるので他の先生にお願いした。普通に寄宿舎に行って・・・」

(佐藤千優さん)
「自分が聞き取りやすい位置に移動して懸命に聞くしかない。分からないままにしないようにしている」

特別支援学校では登校から下校まで生徒に付き添い、クラスも少人数のためより近くで生徒たちに関わることができます。

(生徒は…)
「一緒にゲームで遊んでくれる、優しい先生」

佐藤さんが担当する授業は数学です。

◇授業の様子
「リンゴは何個ですか?リンゴはここ。縦に見て目盛りをみると「8」と読み取ることができる」

教員生活1年目。生徒たちにしっかり理解してもらうために試行錯誤の日々が続きます。

(子供に)「グラフのここを見ると数えなくても量が分かるよ」

(佐藤千優さん)
「子供の「伝えたい」と思う気持ちを大切にしたいと思っている。自分自身も聞こえにくいことで伝えることを諦めたりする経験をしているからこそ、子供たちの伝えたいと思う気持ちを失ってほしくないと思う」

この日は、新任教員を指導する指導教員が授業を視察しました。

(岡山支援学校 拠点校指導教員 川田友美子教諭)
「グラフの縦軸の数字を読み取らせたいけれど、マスを数えている生徒がやはり多い。数えないでと言わなくてもできるよう、教材を工夫できる」

(佐藤千優さん)
「なるほど」

(岡山支援学校拠点校指導員 川田友美子教諭)
「どの子にもすぐに気が付くようになった。聞こえにくさがあるので前方にはいないといけないが、みんなが見える位置に陣取って、どの子がどういう反応をしても動ける位置にいる。それが(2024年)4月と全然違う」

(佐藤千優さん)
「最初はどこにいて、何をしていか分からなかった」

2024年、大学を卒業し地元岡山で教員になった佐藤さん。他の新任教員とはまた違った不安を抱えながら4月を迎えました。

(佐藤千優さん)
「聴覚障害がある私がここで働くことができるかどうか。正直言うと、自分も先輩の先生と同じように岡山聾(ろう)学校で働くことになると思いながら、ゆっくり春休みを過ごしていた」

聞こえる人の中で、スタートした教員生活。大事な情報を聞き逃さないことに必死でした。

(佐藤千優さん)
「(職員室でも)誰が話しているのか分からず、頼る人もいなくて心細い思いだった」

実は佐藤さん、幼い頃は別の夢がありました。

(佐藤千優さん)
「幼稚園の卒業記念文集、小さい時から医療関係の仕事に就きたいと思っていた」

父親の病気がきっかけで目指し始めた医師の仕事。ろう者の医師の講演会や病院のイベントに参加するなど夢を追いかけていました。

(当時中学3年の佐藤さん)
「医者になりたいと思っていて、ろう者で医師になった人の話を聞いて自信がもらえた」

そこから猛勉強し、聞こえにくいというハンデを乗り越え普通科の高校に進学した佐藤さん。しかし、高校2年の時にある出来事が。

(佐藤千優さん)
「リスニングテストが受けられないので「別室で受けたい」と1カ月前からずっとお願いしていたが、当日になって「教室を準備するのを忘れていた。ごめん」と言われ、嫌な思いをした。私は障害がある人の立場に立って支援ができる先生になりたいと思うようになった」

この日は休日、佐藤さんの姿は陸上競技場にありました。見に来たのは弟の練習です。

佐藤さんの弟は、2025年、日本で開催されるデフリンピックに走高跳で出場を目指すデフアスリートです。

(佐藤千優さん)
「時々落ち込んだりする時は、弟に元気をもらうために練習を見に来る」

家族の中で2人だけ聴覚障害があるため、互いの存在は大きな心の支えです。

(弟・佐藤秀祐さん(20))
「頼りになる。困った時に助けてくれる。変な事で怒る先生にはなってほしくない」

(佐藤千優さん)
「はい、気を付けます(笑)」

教員になってまもなく1年、障害があっても、自分が必要なサポートを周りに伝え理解してもらうことで少しずつ働きやすい環境ができているといいます。

そんな佐藤さんの姿を間近で見ている子供たちにも変化が。

(同僚は…)
「だんだん正面に回って話をするようになったり、袖を引っ張ったりする行動が見えたりするので、佐藤先生と関わることで成長しているのかなと思う」

決して一筋縄ではいかない毎日ですが、佐藤さんはこの学校での仕事にとてもやりがいを感じています。

(佐藤千優さん)
「子供たちの成長を見られたときにやりがいをすごく感じる、障害があってもチャレンジすることが大切だよというのを、私自身を通して伝えたい」