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岡山県出身の作家・小手鞠るいさんがふるさとの読者にむけてつづるコラム

2021.06.11

岡山県出身の作家・小手鞠るいさんがふるさとの読者にむけてつづるコラム

読者の方からこんなお便りをいただきました。

【森の家と聞くだけで、気持ちの良い空気が感じられます。夫の仕事の関係で岡山へ20年前に引っ越してきました。岡山で子どもたちが成長できたこと、良かったと思いました。今、東京・大阪にいる息子たちですが、気持ちがしんどい時は岡山を思い出すそうです。Tさん・60歳】

ようこそ、おしゃべりの森へ

私の気持ちがしんどくなることはありませんが、私もいつも岡山を思い出して、晴れの心になっています。
私が29年前にアメリカへ引っ越したのも、夫の仕事(というよりも勉学というのが正しい)の関係です。

最初の4年間は、彼が所属していた大学院のある町で暮らしていたのですが、
修士課程を修了し、もう一度ふたりで日本へ行く(私は帰国ですね)か、
それともアメリカに残るか、迷っていたとき、ふと目に留まったのが
新聞「ザ・ニューヨーク・タイムズ」に出ていた「ウッドストック特集」という記事。
豊かな大自然に恵まれた、芸術村みたいな町に心をひかれて、ウッドストックを訪ねてみたのです。
その結果、ふたりとも見事にウッドストックの町、ではなくて森にノックアウトされ
「ここに住みたいね!」と、意見が一致してしまいました。

それ以来ずっと、町はずれの森の中で暮らしています。
家は、マウント・トバイアスという山の中腹に立っていて、
周りには樹木が生い茂っています。
森では、鹿、くろくま、野うさぎ、りす、しまりす、やまあらし、七面鳥、ふくろうなどなど、
数え切れないほどの野生の生き物たちが暮らしています。
先住民である生き物たちを尊重し、我が家ではとにかく「生き物ファースト主義」を貫いています。
小鳥が玄関先に巣を掛ければ、玄関は使用禁止。
鹿に池の睡蓮(すいれん)をぱくぱく食べられても文句は言わず。

初春から秋の終わりまで、池の周りでは、さまざまな種類のかえるたちがさかんに鳴いています。
朝は小鳥たちの歌声が目覚まし時計で、夜はかえるたちの合唱が子守唄。
朝から晩まで、森はおしゃべりなのです。

人の作った騒音や雑音とは違って、生き物たちの声や歌には心が深く癒やされます。
冬は冬で、雪の景色に癒やされます。
森で暮らしている限り、ストレスというものがまったくたまりません。
だから、でしょうか。
いつもすらすら原稿が書けてしまいます(笑)。
自慢になりますけれど、私、締め切りに遅れたことは一度もありません!

<さりお 2021年6月11日号より>
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